大学・学校づくり研究科 第9回定例研究会

「教育現場から発信するIRのシステム構築に向けて」

難波 輝吉 氏

平成21年7月18日


 本報告では、教育現場から発信するIRシステムの構築について報告した。IRとは、Institutional Researchの略であり、大学内に存在する情報を収集して、意志決定支援に活用する活動を指す。名城大学では、MS-15と呼ばれる基本戦略を立てている。この中で教育の充実という重点領域の中に、全学的な教育プログラムの開発・充実という目標があり、本報告で紹介する英語多読教育はここに位置づく取り組みである。英語多読教育とは、聴く・読む・話す・書くの4技能のうち、読むことに主眼を置く学習法である。具体的には、本の読みやすさや総語数の異なる多読専用の図書を、辞書を使わずに読む学習法である。

 この英語多読教育では、蔵書に関する情報(書名、レベル、語数、ジャンルなど)と学生に関する情報(氏名、所属、学年など)をリレーショナルに接続した貸出情報を得ることができる。具体的には、貸出人数、ベストリーディング、図書ごとの利用回数などの統計情報の収集が可能である。また、英語多読教育では学習成果の記録としてブックレポートの提出を課している。この中で学生は、図書の満足度や難易度を問う質問に答え、図書の内容を要約する作業に取り組む。この提出をもって、図書の読了としている。

 この英語多読教育に関わるIRを、ヒューマンシステムとしてのIRという観点から整理してみたい。第1に、多読教育は、学内の複数組織が協働体制で支えられている。具体的には、大学教育開発センターと英語教員の協働で進め、その情報を図書館総合情報管理システムや教育担当副学長へ伝達される仕組みが機能している。第2に、施設・設備を含む環境の充実に、上で示した収集データを活用している。具体的には、蔵書数に対して貸出冊数が多いレベルや、学生の興味関心の志向を明らかにした上で、重点的な図書整備の意志決定支援を行っている。

 こうしたIRの取り組みは(1)情報を送り届ける先の名宛人とそのニーズを考えた必要な情報の収集・分析と、(2)教育情報を経営情報に、経営情報を教育情報へ変換するという、2つのコンセプトを基本としている。本報告の事例で言えば、大学教育開発センターがIRコーディネータとして、収集した情報を英語教員コミュニティへは教育情報として、大学執行部へは経営情報として届けている。この取り組みを行う上で、IRを担う人材には特別な知識を有した人材を置いているわけではない。むしろ、IRを担う人材は、(1)日常業務の中で感じる疑問や課題に対して強い改善意識を持つ、(2)大学の内部環境・外部環境の動向に関心を持ち、次の一歩を考える、(3)経験を積み重ね、教員と職員が共通言語で対話できるように学び続けるという3つがポイントであろう。すなわち、IRを担う人材とは、教育と経営の業務経験のバランスに配慮した人材である必要があると言える。

 本報告の事例と、それを通じて得られたIR人材像を見ると、IRは特別な資質を持った人材によって担われるのではなく、IRマインドとも言うべき上のような志向性を備えた人材によって担われるべき取り組みである。こうした人材は、既に多くの大学内に存在していると考えられ、IRの実践は決して敷居の高くないものといえる。むしろ、IRマインドを持った人材の養成こそが重要である。

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