大学・学校づくり研究科 第9回定例研究会

「大学を取り巻くビジネスチャンス」

浅野 良一 氏

平成21年7月18日


 本報告では、マーケティング戦略に基づいて大学にとってのビジネスチャンスを考えてみたい。特に、刹那的なビジネスチャンスではなく、地に足をつけたビジネスチャンスを考えていきたい。

 マーケティング戦略の基本は、まず顧客の見極めである。顧客には、在学生のみならず、保護者、卒業生、ビジネス界、地域コミュニティがあり、そこに大学から提供できるもの、大学に提供されるものを考える必要がある。また、外部環境を把握すべきである。特に、大学ではライバルを意識しない例が多い。学部ごとにライバルと競争することでマーケットに提供できるものを変えていけるだろう。さらに、マーケティングには4つの要素があり、それを全て考えておく必要がある。4つの要素は、商品(顧客を満足させる大学が提供できるサービスそのもの)、価格(大学利益も学生負担が適切な授業料、入学金、あるいは立地による生活経費等)、流通(大学への入学者や受験者を獲得する仕組み(附属校や推薦指定校等))、プロモーション(大学の存在や進学・受験を促進する各種の働きかけ)の4つである。

 一般的な私企業のマーケティング戦略は、(1)経営理念、経営目標・方針、(2)経営戦略、マーケティング戦略、組織戦略、財務戦略、(3)商品戦略、価格戦略、流通戦略、プロモーション戦略といった3つの層で全体像を示すことができる。このうち、マーケティング戦略や外への働きかけ、組織戦略は中への働きかけである。しかし、大学では、(1)大学の存在を前提にしている、(2)競合や環境分析をしない、(3)現在の学部学科は与件、(4)過去の流れをベースに予測するという特徴があり、これが有効なマーケティングを妨げている。

 マーケティングでは、自組織のポジショニングが重要である。しかし、大学に関するポジショニングに関する事例はきわめて少ない。そこで、アンゾフの成長戦略マトリクスに沿って考えてみる。第1に、既存の商品を既存の市場へ提供するサービスである。ここでは、定員増や学部名変更などが取り組みとして考えられる。第2に、既存の商品を新規の市場へ提供するサービスである。地方の入試を行ったり、大学院の設置、生涯学習や企業教育などの取り組みが考えられる。第3に、新規商品を既存市場へ提供するサービスである。学部学科の増設や附属学校化が考えられる。第4に、新規商品を新規市場に提供するサービスである。これは新規学部や事業立ち上げが考えられる。

 こうした打って出る取り組みを誰に向けるのか。これを考えるには、市場を細分化して考える必要がある。細分化の考え方には、(1)地理的、(2)人口的、(3)心理的、(4)行動科学的なものがある。大学にとって、この市場細分化戦略が難しいのは、(3)や(4)で細分化をする必要があるからであろう。また、弱者の戦略としてのランチェスター戦略が重要である。これは、特定分野のナンバーワンを狙う、競争目標と攻撃目標を区分して考える、一点集中・重点主義をとるという戦略である。さらに、顧客と大学が提供できるものを便益でつなぐという考え方に注目することもよい。顧客の属性情報から顧客の置かれている状況を明らかにし、そこから顧客の抱える問題点を明らかにする。一方、大学が提供できるものから、その客観的な特徴を明らかにし、そこから客観的特徴が持つ利点を明らかにする。この2つがつながっていれば、便益が生まれるはずである。大学の公開講座は、地域のニーズを無視しているものも少なくないだろう。自分たちの提供できるものを顧客の視点からつなげなければ、それは地域貢献になり得ない。

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