大学・学校づくり研究科 講演会 兼 第10回定例研究会

「『大学の実力』調査からみた経営専門職養成の必要性」

中西 茂 氏
(読売新聞東京本社調査研究本部研究員)

平成21年9月21日


 本講演では、読売新聞が行った「大学の実力」調査の経験から得た、大学経営の課題について考えてみたい。

 「大学の実力」は、読売新聞で連載している教育ルネサンスと連動する形で行ったものである。教育ルネサンスは、必ず現場へ行って話を聞くこと、また、さまざまな課題があることは前提にしながらも前向きな記事として書く、さらに、タブーにも挑戦するという編集方針で取材してきた。教育にはさまざまな批判があるが、批判だけでもおだてるだけでもない記事を書くというコンセプトだ。2007年から「教師力・大学編」など教育力に注目した連載を行い、その後も、初年次教育、学士力、職員力などをテーマにした連載を行っている。

 この中で紹介された事例を一つ紹介してみたい。大学は連携の時代と言われているが、その中でも象徴的な事例として、語学教育の強化をねらって外国語大学へ語学教育を委託した事例がある。これは、学長が決断し、即実行したものである。通常は理事会や教授会での議論を経るなど、決定に時間がかかる。しかし、この事例では発案から1年も経たずに受け入れを決定している。結果として志願者増になったようだ。

 さて、「大学の実力」調査は、偏差値によらない大学選びを促すためにはじめたものである。偏差値に代わる大学選びの視点として、教育力に注目した。入学時点の学力の高さではなく、入学から卒業までの伸びしろを大事にしたいという考え方である。これをどのように調査するかが課題であった。どのような調査方法をとっても批判は出るが、この調査では大学自身による自己評価で回答をしてもらうことにしている。この点は重要で、自己評価結果が甘いのではないか、最終的な総合評価だけは読売新聞側でやってもよいのではないかなどの声があることも承知しているが、総合評価を含めて全て大学自身による自己評価である。

 当初は、新聞社がやる調査にどの程度の回答が返って来るか不明確であったが、結果として2/3の大学から回答を得ることができた。特に、退学率や定員充足率が、個別大学ごとに公表される調査であったため、これは画期的なことであり、実施側としては各大学に深く感謝申し上げたいところである。

 この中で、注目すべき実態が明らかになった面もある。例えば、一般入試で入学する学生の割合が数パーセントの大学があったり、AO入試で1000人以上が入学している大学がある。本来のAO入試は丁寧である反面、多大なコストがかかる選抜方法であるが、こうした事例ではどれだけの作業をしているのか疑問である。本来のAOとしてありえないのではないだろうか。また、保護者会を開催する大学は8割を超え、心の支援やボランティア、インターンシップを行う大学も多い。

 新聞社から学長宛の調査依頼文書を発送すると、しかるべき部署に届かないことがあるようだ。第1回の調査では、締め切りを守ったのは100校あまりであり、その時は初回の調査であることもあり、再度の依頼をした。加えて督促の郵便も出したが、それに反応がない大学や、調査票が届いていない、調査票を紛失したという連絡もあった。これは、組織の長へ宛てた郵便が、しかるべき部署へ届かないということは、一般的な組織では考えられないことである。大学がいかに組織の体をなしていないかを示す例と言える。さらに、調査結果公表後は、訂正の連絡が断続的に来ることになった。読売新聞側への連絡なしに、大学が独自にウェブサイトで訂正内容を公表しているものもある。さらに、「なぜうちの大学が掲載されていないのか」「誰が回答したのか」「総合評価は誰がどういう基準でつけたのか」「今から回答し直せるか」という問い合わせすらあった。調査依頼では、全ての大学に送付し、個別大学単位で公表することを明確に示しており、回答しなければ掲載されないことは自明であったはずだ。大学の反応は、社会的な常識から見れば、とても考えられないものである。

 調査は、大学側にはかなりのインパクトがあったようだが、本来、高校の進路指導担当にもっと知ってほしいと考えている。残念ながら、現状ではどこまで高校側に認知されているかはわからない。大学の情報を、より広く公表していく努力が必要だ。中教審の部会でも、大学の情報公開は、公表のための組織・責任体制と、公表を促すインセンティブがないことが指摘されている。大学のステークホルダーは、私立学校法の規定に沿うと、学生、保護者、教職員、法人に対する債権者になるが、志願者、高校教員、卒業生が入ると考えられるし、地域住民や自治体も含めてよいという考え方もある。また、補助金を受けている以上、一般国民がステークホルダーと考えてもよい。今後は、マイナス情報も含め、情報公開が大学の義務になっていく流れになるのではないかと考える。他の世界では「○○広報」というような、特定の広報に関する言葉を使うことはないが、大学では「入試広報」という言葉がある。これは、大学の狭い見識を反映したものではないだろうか。本当の広報は、攻めの広報であり、狭い広報ではない。

 このように見てくると、職員の力が重要だ。特に、AO入試を本来の意味で実施したり、カリキュラム外の学習機会を作るには職員の力が必要である。教育と研究に関わること以外は、職員の仕事と考える必要がある。大学の情報公開度は、組織の健全性を測る目安と考えられる。職員が学内を取材して回ることが組織の活性化につながる。それには職員間のつながりが重要だ。

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