大学・学校づくり研究科 第12回定例研究会

「学生中心の大学はいかに創られたのか
- 金沢工業大学での聞き取り調査報告 -」

江坂 秀晃 氏・武田 明 氏・藤井 玲子 氏・若山 正代 氏

平成21年11月21日


 本報告では、金沢工業大学の訪問調査の報告を行う。金沢工業大学の建学綱領は人間形成・技術革新・産学協同、理念は学生第一主義という大学である。学生の総合力を高めるための特色として、夢工房、ライブラリーセンター、数理工教育センター等の施設を有する。そのため、特色ある大学教育支援プログラム等の教育支援外部資金等の獲得件数は、全国3位の実績を持つ。また、専門科目の教員の約5割が企業出身者であり、卒業生の教員・職員の割合も高い。大学の方針として定められている。これは、産学連携の推進において重要な要素となっている。以下では、(1)大学として現状に危機感を持ち、すべては学生のためという理念を策定し、教職員の意識改革を行った過程、(2)すべては学生のためという理念の組織全体への浸透プロセスとその方法、(3)すべては学生のためという理念の浸透後、それをいかに維持・発展させ、ビジョンの実現につなげているかという3点を明らかにする訪問調査を行った結果について報告する。

 第1の意識改革の背景には、18歳人口の減少による入学者の定員割れがある。このとき、1980年頃の米国にならい、生き残った大学の特徴として(1)顧客としての学生のマーケティング、(2)満足度向上のためのアプローチの2点に注目し、学生が主役となる大学づくりを志向することにした。学生が主役となる大学づくりという目標の達成のため、95年より教育改革に着手、99年には顧客満足度向上プロジェクトの発足に至った。このプロジェクトは、理事長を委員長とし、若手事務職員をメンバーとして運営し、月に2回の意見交換を行う中で進めてきた。そして、事務職員の意識を顧客志向に転換してきた。具体的には、学生のためという価値判断による意思統一、事務職員の日本経営品質賞セルフアセッサー研修、職員の満足度向上を目的とするアンケートや聞き取り調査の実施などを進めてきた。

 第2の理念の浸透方法として代表的なものは、学内外で開かれる研修会があげられる。特にセルフアセッサー研修は、専任事務職員の半数にあたる114人が受講し修了している。理事長以下、職位の高いものから順に受講することとし、受講費用も全て大学側が負担している。これを通じて、職員に対する理念の浸透とPDCAサイクルの中で業務を遂行するスキルが高まってきた。一方、教員に対する理念の浸透方法として、任期を3年としている点があげられる。これは、人材の流動化を促すことで教育・研究の活性化を図ると共に、教員は採用後、この3年間で全ては学生のためという理念を浸透させる効果があるという。

 第3の、理念浸透の維持発展については、(1)恒常的な評価文化の構築、(2)教職協働の構築、(3)バリューの共有と重視という3点の特徴があげられる。1点目の評価文化の構築については、日本経営品質賞の枠組みに基づくいて評価を行うこと、在学生・卒業生・教職員を対象とするKIT総合アンケートの実施という2つの方法で進めている。特にアンケートについては、経年比較による現状把握に努めており、PDCAサイクルの維持に貢献している。金沢工業大学では、職員に求められるスキルとして、アセスメントスキルを特に重視しており、このスキルの養成を通じて恒常的な評価文化の構築を進めているといえる。2点目の教職協働については、学生・教員・職員間の情報交換の活性化を進めている。具体的には、FDに職員が参加し、教員の課題を職員が共有したり、FDの場で教員と職員が意見交換する場を設けるといった取り組みを行っている。3点目のバリューの共有については、KIT-IDEALと呼ばれる行動規範を定め、人事考課などにおいてはKIT-IDEALを大切にし良いところを認めて表彰する取り組みを行っている。

 調査から得られた示唆として、(1)理事長のトップダウンによる大学改革、92)同じベクトルを向くための様々な仕組みづくり、(3)絵に描いた餅で終わらせない実行力、(4)組織全体のPDCAサイクルの定着という4点が指摘できる。いずれも一般的に言われて久しいものばかりであるが、これら全てが確実に機能する組織をつくっている事例は必ずしも多くないだろう。

»一つ前へ戻る