大学・学校づくり研究科 第14回定例研究会(学校法人トップセミナーと共催)

「町全体を一つの学校とみなした五ヶ瀬教育ビジョン」

日渡 円 氏
(宮崎県五ヶ瀬町)

平成22年1月23日


 本報告では、学校はそもそも何のためにあるのか、という問いから出発して、地域が学校をよくするために積極的に関与する時代における教育ビジョンについて考えてみたい。

 学校と地域との関係を確認するため、校長から各学校の課題を聞くと、共通して挙げられたのは学力向上であった。校長たちの認識は田舎で学校の規模が小さいため競争心がわかず、切磋琢磨の機会がないから、コミュニケーション能力が弱い、書く力が弱い、読む力が弱いというものだった。このような認識は、小さいことは駄目で大きいことが良い、地方よりも中心地が良いという明治以来続いてきた考えに縛られたものである。教育というものは学校や教師たちが押し付けるのではなくて、地域が、親がどういう教育を受けさせたいかという価値観を持たないと学校は反応できない。

 私自身は、産業革命以来続いている消費型社会の価値観を変えたいと思っている。学校で高い能力をつけ、それが高い学歴、高い給与につながり、高い給与は高い幸せを生むという連鎖ではなく、五ヶ瀬にしかない幸せを発見し、子どもたちに伝えることによって、均衡のとれた日本にしたいと考えている。

 その際、1940年から続いている県費負担教職員制度が問題になる。1940年以前は市町村の学校の職員の給与は市町村が払っていた。市町村間の格差を是正するために都道府県に給与権を与えたのだが、これにより学校教職員が市町村職員であるという自覚が薄れてしまった。このため、子どもに対して、地域の話ではなくて、県の話や国の話をしてしまう。教師たちは地域にどういう幸せがあるのかを知らないのだ。

 これを断ち切るために、五ヶ瀬町では私の赴任時以降、校長と教頭と事務職員に議会の傍聴を義務づけた。これをしないと、学校教職員は自分たちだけで地域のことを判断してしまう。地域に住んでもいない校長が「この学校の課題は云々」と言ってしまう。学校教職員による議会傍聴は、町のことを知ってもらうと同時に、議員が活性化するという効果をもたらした。町予算の最大の部分を占めている教育について議員が関心を持つようになった。

 このようなことを進めながら五ヶ瀬教育ビジョンをつくった。五ヶ瀬教育ビジョンは三つのカテゴリーから構成されている。第1のカテゴリーは学校制度の変革と指導方法の刷新、第2のカテゴリーは教職員の町づくり参加、第3のカテゴリーは第1と第2を支える学校のシステム変更である。

 まず第1のカテゴリーでは、従来の授業形態を変えた。学級集団に固定された授業を、各学年・各教科の内容ごとに最適な児童生徒数で授業を行うようにした。また、小中一貫教育を町全体で実施している。第2のカテゴリーである町づくりについては、教員が子どもたちと同じ物差しで話ができるようにするために、教員が町全体を考えるという趣旨である。第3のカテゴリーであるシステム変更は、学校予算の仕組みを変更し、この目標のためにこれだけの投資をしたいという予算を学校が出すという方式に変えた。

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