大学・学校づくり研究科 第17回定例研究会

「人格とキー・コンピテンシー
- 教育の目標概念に及ぼすDeSeCoプロジェクトの影響について -」

宮嶋 秀光 氏
(名城大学)

平成22年5月15日


 本報告は、カリキュラムを改革していく際の基礎となる、人材育成像、コンピテンシーなどの問題を批判的に考えたい。2003年のPISA調査では、我が国の学力は全体として国際的に上位だが、読解力などはOCED平気程度で低下傾向にあり、世界トップレベルとは言えない状況にあることがわかっている。特に学校外の勉強時間が、OCED平均8.9時間に対し、日本は6.5時間というのは大きな差である。以前は、いったん獲得したらずっと使える知識が確実に定着しているかを指して、学力という言葉が使われていた。つまり、学力とはアチーブメント、達成したものであった。しかし、現在は学び続ける能力、読解力・表現力が強調され、さらに学力の中に動機付けといったものも含まれて学力が考えられるようになった。PISAの学力の背景には、DeSeCoプロジェクトがある。2008年1月の中公審答申でも、そうした考え方を背景とした答申がなされた。

 DeSeCoの概要は、キー・コンピテンシーとして、(1)単に蓄えられた知識を超えたもの、(2)その核心は思慮深さである、(3)状況に応じてこのなった組み合わせとなるという、3つの枠組みがある。特に、2点目は、これまでの教育であまり強調されてこなかったことで、注目に値する。ここで、キー・コンピテンシーの選択の仕方と定義の仕方がおもしろい。コンピテンスとコンピテンシーという言葉は、アメリカでコンピテンシー、欧州でコンピテンスという。アメリカでは職務と関連し使われ、優れた職務を遂行する力を指す言葉としてコンピテンシーという。これには、知識・技能に加えて、具体的な行動特性として現れる能力、それを遂行する動機付け力が含まれる点がおもしろい。また、DeSeCoのキー・コンピテンシーには3つの領域があり、(1)相互作用的に道具を使用する、(2)異質な諸集団の中で相互的に行動する、(3)自律的に行動するという領域がある。DeSeCoでは異質な集団の中で交流することも学力としてとらえているが、これは従来の学力には入っていなかったものだろう。これらは、企業の採用基準とほとんど同じものである。

 こうした考え方に対する評価は分かれている。中教審答申は肯定的にとらえているが、懐疑的な意見も多い。たとえば、DeSeCo型の学力を、学校の教育目標である生きる力に結びつけて良いか、結局は経済活動のためのコンピテンシーではないのか、道徳教育の軽視につながるのではないかなどの意見である。

 DeSeCoのキー・コンピテンシーの導出方法は、個人の人生の充実と順調に機能する社会のための前提条件を取り出すという考え方であり、社会からの要請に応じて決められるものといえる。教育基本法が考える人格の完成は、あらゆる能力をバランスよく育成する趣旨であったと言えよう。そこでの教育目標の把握は、人間学的に構想された教育目標、すなわち、人間学や心理学研究に根ざした教育目標の把握であった。それが、政策に関わる分析と議論に根ざして教育目標の把握が行われるようになった。

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