大学・学校づくり研究科 第18回定例研究会

「優れた人間性を備える医療人育成と医療系大学の経営戦略」

小川 由美子 氏
(愛知医療学院短期大学)

平成22年6月19日


 本報告では、優れた人間性を備える医療人育成という観点から、医療系大学の課題について考えてみたい。背景には、医療政策の課題がある。たとえば、医師不足への対応、医療従事者の職能拡大と定員増、医療費抑制対策としての在院日数の短縮などの課題が挙げられる。医療人に求められる能力には、大きくわけて、専門的な知識と技術という面と、人間相手であるという面の2つがある。こうしたことを前提にすると、医療技術者養成の今日的課題として、養成施設に関する問題を指摘しなければならない。具体的には、高度な医療設備が必要なために、臨床実習施設の取り合いが起こったり、実習指導者の条件が臨床経験3年以上のみということから生じる臨床実習指導者の質の問題がある。これらに加えて、資格取得のための縛られたカリキュラム、中途退学者問題など、大学としての課題がある。また、近年の学生は、継続的な学習習慣が少ない、学習意欲が低い、基礎学力が不足するといった知的資質の問題に加えて、不本意入学、コミュニケーション能力の低下などの問題が加わり、非常に複雑な問題に対応することが求められている。ある医療系大学で行った調査によれば、授業への出席状況はかなり良好であるにもかかわらず、授業の理解度は理解できる、半分くらい理解できるをあわせても42%という状況のようだ。また、知識の習得や向上において、入学前にほとんどの学生が期待していたにもかかわらず、入学後の状況については、予想を下回った、予想を少し下回ったをあわせると61%に上る状況のようだ。

 ここで、特色ある教育に取り組む北海道医療大学の事例に注目してみたい。同大学は、薬学、歯学、看護福祉学、心理科学の4学部を持つ医療大学である。同大学の特徴は、その意志決定・合意形成システムに特徴がある。端的に表すならば、早い意志決定・合意形成であり、事務スタッフが企画調整会議、学部長会議、大学評議会、常任理事会、理事会に全て関わり、情報収集と分析を担っている。この組織マネジメントの特徴について、3つの期間に分けてみてみよう。第1期の戦略形成は90年~93年頃取り組まれ、21世紀に向かう大学のあり方を模索する目的で進められた。この間の取り組みでは、7つの委員会で230の提言項目をまとめ、96年までに63%を実現している。第2期は、99年~08年に取り組まれ、パラダイムシフトによる新医療人育成の北の拠点を目指すという目的の下で進められた。現在は、2020年までの第3期の計画に取り組んでおり、この中で教員評価制度や人件費ポイント制などを進めてきた。また、組織的な医療人材育成戦略として、大学教育開発センターによる学部を超えた全額基礎教育の実施、Eラーニングによる国家試験対策や入学前教育、TA・RA・PDなどの教育研究支援職員の拡充などを進めてきた。

 以上をまとめると、リーダーシップによる経営戦略、組織的実行、意志決定・合意形成システムの構築という面で、北海道医療大学は強みを持っている。こうした取り組みを参考にすると、医療系大学で取り組むべき課題として次のことが指摘できる。第1に、向かうべき方向について関係者全員が合意することである。学長の信念や考えを全職員に伝える、大学の出版物や学内向け説明会などでそれらを説明する必要があるだろう。第2に、顧客の声、すなわち質の重視である。保護者懇談会の開催や学生アンケートを基に、全教員による授業評価レポート作成などがある。第3に、大学人としての自覚と役割の認識である。新たに、大学に昇格した大学の課題であるが、紀要の発行、FD・SDの充実、自己点検評価への取り組みなどが必要である。

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