大学・学校づくり研究科 第25回定例研究会

「オンライン授業における学習者中心の学びを支援する授業設計
-熊本大学での実践事例から-」

宮崎 誠 氏
(熊本大学)

平成23年2月19日


 本報告では,熊本大学におけるeラーニングの歴史に始まり,現在の完全オンラインでの大学院教育に至る経緯とその支援体制や教授法について示したい。熊本大学では,1997年から学務情報システムを導入し,学内の学務情報・学生情報の電子化を進めてきた。Webベースでの履修登録・学籍管理もこの頃から始まったものである。その後,2002年に情報基礎教育において全学一斉のLMS導入を経験した。10数名の教員が2000名以上の学生を指導する中で生まれたものである。これら一連の経験からGP等に採択され,それが後押しになり教授システム学専攻の設置に至った。これに伴い,eラーニング推進機構の発足やeポートフォリオの全学利用へと進んでいる。現在では,通学生に遠隔学習者が参加するゼミでは,ゼミ発表をビデオ撮影し,それを遠隔学習者が視聴,掲示板を利用して通学生との議論を行う実践が行われている。また,授業のみならず教職員研修のオンデマンドかなどにも使われている。こうした体制は,eラーニング推進室によって支えられている。専任教職員3名,兼担2名,非常勤9名という多数の人材が置かれていることからも理解できよう。

 熊本大学では,eラーニングの専門家をeラーニングで育成する大学院を設置している。学内の経験からeラーニングの一層の推進において専門家の存在が不可欠であり,その養成機関が国内になかったことから設置されたものである。そこでの中心的な教育内容は,インストラクショナル・デザインであるが,この大学院のカリキュラム設計や科目設計自体もインストラクショナル・デザインの考え方に沿って設計されている。特に,学習の質・量の確保では,授業を15回に分割し,毎回の授業で課される小さなタスクを明確にし,学習活動を明確にした上で,数回の課題でコンピテンシーを確認する方法をとっている。eラーニングのコンテンツとしては,ビデオ,テキストとオンラインテキストが多く,掲示板を利用した協調学習を進めている。例えば,自分のレポートを掲示板に投稿するよう指示があり,その後同級生のレポートに批判的なコメントを2つつけるよう指示し,さらに自分への批判に反論するよう指示するといった,小さなタスクの積み重ねで成り立っている。

 eラーニングを実践する指針としては,質保証の5レベルが参考になる。熊本大学ではレベル−1(いらつきのなさ)の対応として,2月末からオリエンテーション科目を実施している。単位には認定されないが,コンピュータの初心者でも学習環境を整備する科目であり,特に,ゴールステートメント(修了時の人物像を宣言),履修計画,リフレクションペーパー,入学前の成果リストは重要である。レベル0(うそのなさ)の対応としては,教材開発にあたっては設計書に当たるヒアリングシートを作成する。その他,ID専任教員による評価・レビューを受け,コンテンツの質保証を進める(レベル1),学習課題に応じた学習環境作成(レベル2),学習者のやる気を引き出す魅力をつくる(レベル3)などを進めている。

 こうした経験から見れば,リテラシーは必須として,授業設計が正確にされていれば,掲示板でも対面授業のような議論は可能と言える。実際によく使うツールとしては,掲示板やメール,これに加え必要に応じてSkypeが多い。学習の過程や成果は掲示板に集約されるが,補助ツールとして同期型の協調学習ツールも使われている。言うまでもなく,オリエンテーションでの学習環境の整備・フォローは必要である。

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