大学・学校づくり研究科 第26回定例研究会

「大学事務組織における課長級職員の人材育成役割に関する研究」

藤井 玲子 氏
(愛知東邦大学)

平成23年4月16日


 本報告では,大学事務組織を対象として課長級職員の人材育成役割について報告する。教育機関で働く構成員の社会的役割は,企業の構成員以上に大きく,特に人材育成の役割は重要であろう。大学の構成員である職員については,昭和62年の臨教審答申においても大学の経営上不可欠の要員として指摘されており,大学経営をめぐる課題が高度化・複雑化する中でますます重要になってきている。しかしながら,SDが注目されている割には,活発に行っているのは一部の大学のみで,十分な大学職員の育成が行われているとは言い難い。そこで,本報告では大学職員の育成主体は誰かという点に注目したい。いくつかの調査でも,研修型の学習は経験率が高いものの,有効感が低いことが示されている。本報告は,職員の自己啓発の努力を促進し,職場内研修として職員が能力を発揮する機会に注目する。具体的な課題として,現場の管理職である課長級職員による人材育成,すなわち,課長らの人材育成の方針とリーダー行動,人が育ちやすい環境,人材育成における課長の果たす役割を明らかにすることを試みる。

 調査として,組織規模の異なる5大学9名の課長を,事務局長の推薦によりインタビュー候補者として特定した。対象者に対し,ストレッチ課題の委任,内省の喚起,双方向の教育と学習,安心感・緊張感のある雰囲気の4点を尋ねるインタビューを行った。調査の結果,人材を育成する課長の2つの特徴的な点が明らかとなった。第1に,人材育成の基本方針とマネジメント(人材育成の信念,人材育成に関わるリーダー行動,組織づくりを通した人材育成)の重要性,第2に,人材育成に及ぶ諸要因(阻害要因と促進要因)の2点である。人材育成の信念については,細かい指示をしない,部下の意志を尊重する,法令・法規に基づいて業務を行うよう指導する,定型業務から政策的課題解決まで割り振るという具体的な信念を持つことがわかった。人材育成に関わるリーダー行動については,部署業務全体と個別業務の関係性の理解促進,新規配属者への教育機会の創出,当事者意識の醸成,ストレッチ課題の委任,部下の特徴に合った支援,管理職として必要な能力の習得機会の創出,意識的な問いかけという特徴的な行動が明らかになった。組織づくりを通した人材育成としては,縦割り・相互不干渉の回避,協働業務遂行システムの確立,コミュニケーション環境の整備などが特徴的である。

 こうした調査結果から,人が育ちやすい環境には,協働業務遂行システムとストレッチ課題が柱となる学びの環境や,理由や動機を検証し,対話から内省につながる課長級職員の問いかけなどがあることがわかる。課長級職員は,人が育ちやすい環境を形成し,メンターとしての役割が求められる。それはいわゆる配慮型リーダーシップであり,特定業務の精通に加え,職場の課題構造の変化にとらわれない様々な業務に応用可能な能力が部下に身につくと考えられる。これは,将来の大学事務組織を担う職員の育成につながるだろう。

 企業では,人材育成のリーダーは職場の上司であると指摘されているが,大学では以前から職場内に育成的風土はなく,そもそも管理職に人材育成が求められいないという声も少なくない。大学では,課長の役割の一つに人材育成を位置づけることから始めなければならない。

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