大学・学校づくり研究科 第27回定例研究会

「教育委員会制度は不要なのか?
―教育長経験に基づいて― 」

岸本 和行 氏
(前高浜市教育委員会教育長)

平成23年5月21日


 本報告では,教育長経験そのものを紹介し,最終的に教育委員会制度の要・不要について考えたい。教育委員会が何を意識しているかと言えば,行政出身の立場から言えば,行政職員が社会教育を理解して展開しているか,住民はそれを切り分け,これが社会教育,あれが社会教育という考えになっているかという問題を指摘できる。住民はそうした切り分けをしていないのが現状であり,条文での切り分けが現状に即したものではない。平成14年に教育長になった際,補助執行として教育委員会から幼稚園と保育園の一体化を進める実務を進めることになった。現在は法改正され,補助執行ではなく市長の権限で社会教育分野を行うことができる。当時の高浜市は,補助執行で取り組んだが,法改正後もこの形態で進めることが確認されている。法の趣旨は,市長部局へ移管し,条例を制定することを求めていたと思われるが,現市長が議会人として従来から関わってきた経緯もあり,そうした判断になったと考えられる。補助執行は最終的に教育委員会に責任がある。9年間補助執行で動いてきた中で,高浜市が1つの市として生き延びるには,行政のスリム化は避けられない命題である。財政力指数を1で維持できるところは約800ある市町村の内100もない。高浜市は0.95~1,周辺自治体は財政力指数でトップ10を維持できる環境では,住民は隣の芝生の青さを見ざるを得ない。首長はそうした要望に応えたいわけだが,これに応えるにはスリム化が避けられない。実際,大合併の時に高浜市にも合併の案があったが,実際には周辺自治体にとってのメリットが薄かったこともあり,そうした事態には至らなかった。これが,社会教育のアウトソース等につながることとなる。

 市が自由に使えるお金は固定資産税と市民税しかなく,それ以外は全て条件のついたお金である。その中で,首長と議会の理解のもとで,教育委員会が学校教育以外の予算で1億を確保した。逆に言えば,どこかの予算,おそらく土木関連から1億減っていることを意味する。この中で,教育委員,社会教育委員の役割として,高い見識・意欲を持って仕事にあたるかが課題になる。実は,人工250万人の名古屋市であっても,人工4万5千人の高浜市であっても,教育委員会は1つであり,委員は数名の差はあれ6名程度である。そこからどういう人材を選ぶかは深刻であり,小規模自治体では見識・意欲を見つけることが困難となる。ただし,大規模自治体では必ずしも辛口の人材をするとは言えず,公募をするなどはあるものの,積極的な人材登用を行っているとは言えない。教育委員は首長が選び,議会の承認事項である。高浜市では公募はできるが行っていない。教育委員は,教育の非専門家として,専門家とのバランスをとることが1つの目的である。ここで,非専門家である委員が補助執行に見識と意欲を持って取り組めるかと言えば,これは非常に難しい。この意味で,教育委員は必要なのかというテーマが上がり,委員会の不要論につながる。

 最終的には人がつくものであり,教育委員会不要論に答えは出せないものである。学校教育サイドから見れば,教育は政治の中立性を保つために教育委員会が必要であるという論理は正しい。一方,首長から見れば,首長の責任は選挙で選ばれ市民とマニフェストを約束した立場であり,総合行政を担う責任がある。そこでは,教育は別だという論理はなく,当然教育も担う。市民は,市長が変わることで,教育が変わることを期待するものである。その際に,教育委員会は首長の要請を拒否するかが大きな分岐となる。政治中立性を理由に拒否するか,住民期待に歩み寄り協働するか,これはその時の人で決まる。学校を作るのは首長の責任であり,土地の買収から始まり校舎設営など多くの税金が必要となる。翼小学校の例で言えば,30億がかかっている。土地買収を担当する職員の苦労の上に学校ができているのである。こうした背景が,首長へ移管すべきだという強い意見をもつ首長が出てくる背景でもある。

 2000年前後は,いじめによる自殺などで,学校に対する不信感が全国的に高まった時期であった。住民はマスコミのポジションから取られた絵や文字を見て教育のことを知り,首長へ要望を出すことになる。内実を住民が知ることはできないのだ。この中で,首長自身も教育委員会に不信感を持つようにもなり,非専門家の教育委員には任せられないのではないかという議論が出て,不要論が出てくると考えられる。首長は総合行政責任者であり,教育委員会のことだからとは言えない。結局は,教育委員会と首長の連携が問題である。ある事件の一方が入った際に,私が取った対応は,まず首長と議会の長へ報告したことである。責任者が第一報を住民から知るというのは最も不信感を持つ原因である。これだけは起こってはいけない。首長が教育委員を任命するため,連携を行うことはかなりの程度可能である。組織の問題は,そこにいる人の問題であり,意思疎通が行え,有事には協力できる体制があれば,不要論は現実には起きてこないのではないかと考える。現在,学校における人事・研修は県が権限を持っている(政令市は移管済み)。教育委員会から見れば,非常にやりにくいが,仮に高浜市にその権限が来ると立ちゆかなくなるのも現実である。教員採用試験の受験者が十分に集まるとも考えにくい。人事権をもらうことはプラスもあるが,マイナスも大きい問題である。

 現場の視点から言えば,最後は人の問題であり,きちんとした人がつけばどのような問題も問題とならない。

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