大学・学校づくり研究科 第30回定例研究会

「教育長の能力育成と学校」

日渡 円 氏
(兵庫教育大学)

平成23年10月15日


 このセミナーでは,教育長の能力と育成に加えて,教員の資質能力についても触れながら議論したい。

 教育長や教育委員会というものを,学校ではどういう位置づけでとらえているかを考えると,教育委員会で考える位置づけとかなり違うと言わざるを得ない。我が国では集権的な方法で教育を作ってきたが,学校では何もわかっていないまま教育をしているのが現状である。教員の資質能力というテーマで審議会を開くことは重要だが,教員の資質や能力が落ちているという証拠があるかと言われると定かではない。審議会のメンバーは,2/3が大学の教員であり,残りが行政等の人間である。どうすれば教員の資質能力が上がるか,どこに手を付ければ能力が上がるかを考えると,教員の養成も重要であるものの,採用,研修,任用などの職業人生における資質向上が極めて重要である。現在の2年課程で二種免許,4年課程で一種免許,修士課程までを含めて専修免許という枠組みは,50年前にできたものである。既に,助教諭は日本からいなくなったものの,学校教育法には助教諭が残っている。進行中の議論では,四年生大学卒の免許を基礎免許,修士課程の2年を加えると一般免許ということを考えている。すなわち,現在の一種免許は修士課程までの6年で養成されることになる。また,修士課程のうち1年は現場経験を積む期間とすることを考えている。未確定ではあるが,一般免許の上に専門免許群,すなわち,学校経営,生徒指導,特別支援などの専門性を身につける課程の設置である。仮にそうなった場合,現在小中高で7万人いる管理職のうち,専門免許が必要になると年間3000人を養成しなければならなくなる予想になる。教職大学院の定員は現在840人程度であり,相当な困難が予想されるが,今後の議論に注目したい。この構想の中では,学校経営の免許を持った管理職が生まれることになり,学校の景色が大きく変わる可能性がある。これまでの経営職は,教諭のキャリアのみで主幹,教頭,副校長などを経て育成されてきたことを考えれば,大転換である。

 教員の資質能力を上げることは難しい。全国に公立小中高で教員は100万人(うち小中で60万人)おり,労働人口の60人に1人が教員という計算になる。これだけの人数の資質向上を行うことは,養成や研修ではとても受け入れきれない。教員の資質には望ましい頂点が不明確であり,職業経験を通じて望ましい教師像がいつの間にか管理職に置き換わってしまう。1つの考え方は,望ましい教員増を目指せる職業を作ることである。しかしながら,これは難しく,もう1つの方法は校長であるが,これも3万人以上おり,校長のみを対象にすることも同様に困難である。そこで,全国に1700人しかいない教育長を対象にする案が出てくる。日本の教育長は,教員を退職後に就くケースが多く,現場経験は20年前の経験である上に,責任を十分に負える立場にない。また,教育長にはどういう能力が必要かも十分議論されていない。

 そこで,教育長の資質を明らかにする必要がある。仮説であるが,民間企業の社長の資質,行政トップの資質,教育経験という3つを分析し,明らかにするアプローチで検討する調査が進行中である。地方分権の時代でもあり,市長村が変わると学校も変わりやすい。ただし,地方分権といいながら本当にそうなっているかは検討を要する。これまでに何度か教育を取り巻く制度や制作が変わってきたが,教育に関わる人たちの認識は必ずしも変わってきたとは言えない。むしろ,談合して従来の価値観を引きずってきたと言えるのではないか。復興期に集権的な手法が必要であったことは否めない。それを経て現在,国は地方分権を進めているものの,現場で働く教職員の頭の中が分権化しているかと言えば,ほとんど集権的である。集権的な発想しか持ち合わせていないためである。戦後の人たちは一人一人が認識を変えた,それは大変な努力を伴うものであったと想像できるが,現在われわれはその努力に匹敵する認識の転換をしているだろうか。

 たとえば,学級編成といった場合,すぐに40人という数字が浮かぶかもしれない。実際に,100万人の教職員がそういう。なぜ,そういう思考になるのか。来年度42人入学すると聞くと,2学級編成するという人が多い。なぜ2学級かと聞くと,法律に詳しいグループの人は法律に書いてあるという。法律には学級編成と教職員定数の標準について述べる中で40という数字が出てくる。これを1学級の生徒数と考える解釈が多いが,条文の中では41人に対して2人の教員定数を示している。この背後に大きな集権的な思考バイアスが潜んでいる。ほぼ全ての教員が41人に対して2学級と考えているためである。平成23年4月に出された「公立義務教育諸学校の学級編成及び教職員定数の標準に関する法律」では,学級編成の基準は都道府県教育委員会で定めることも示している。この都道府県が作る基準は,いままで市町村が従うべきであった基準を改めて,従う新たな「標準」を作ることを示している。基準でなく標準である点が異なる。さらには,学級編成に関する協議の義務づけを廃して,事後の届出制とすることも示している。もともと,市町村が協議すれば県は認めざるを得ないことを示したものであったが,そうした解釈はされてこなかった。40は定数算出の基準であり,各学校がどう編成するかは,自由に決められるものであった。子供たちに最も効果的な人数を学校が主体的に考えずに,40という数字にとらわれている現状の中で,平成24年度より実施される自由な学級編成に学校現場は耐えられるだろうか。自分たちで責任を取る管理職と,教員の主体的な思考が求められている。

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