大学・学校づくり研究科 第31回定例研究会

「現代の大学づくりにスタートを切った金沢星稜大学」

薩如拉・志村知美・花原大輔・董哲
(名城大学)
寺井嘉治 氏
(コメンテータ)(金沢星稜大学)

平成23年11月12日


 本報告では,金沢星稜大学を訪問調査し,地方の中小規模大学では生き残りをかけ,先進的な取り組みがされている。調査対象の大学は,受験生,保護者,学生など多様な関係者向けにそれぞれに向けた広報資料を丁寧に制作しており,興味の入り口となった。その後,事前調査を進めるにつれ,入学生が増加していること,関係者が「たいしたことをしていない」と言っていることなど,一層訪問調査の必要性が認識された。金沢星稜大学は,幼稚園から大学院まで設置する学校法人稲置学園におかれた大学であり,大学教員は67名,大学・法人職員は66名の組織である。大学は,経済学部と人間科学部の2学部を持つ。2004年までは入学者数の減少を経験してきたが,その後入学者数が増加に転じており,上場企業内定学生割合が,2003年の0.9%から2009年の39%まで増加している。調査にあたり,仮説としてターニングポイントになった2004年に就任した寺井事務局長(当時)および坂野学長(当時)の役割,「星陵TODAY」と呼ばれる学内新聞の取り組み,キャリア・デベロップメント・プログラムと呼ばれる教育カリキュラムの3つに変革の鍵があると考えて調査を行った。

 キーパーソンの一人である事務局長は,金沢大学で教務・学生支援関係の業務に従事した人物である。教養教育がなくなった大綱化時に教務課長,留学生10万人計画時に留学生課長,国立大学法人化時に企画広報室長を経験するなどの節目の経験が,現在の業務につながっていると考えられる。2002年より金沢星稜大学へ赴任した。当時は,学生も教職員も,自分の大学名を名乗ることに卑下する意識を持っており,教員も半数が学会に所属していないという現状であった。予算も赤字予算を組むような状態であり,入学定員割れにも関わらず教職員が関心を持たないなど,このままではいけないという強い問題意識を持っていた。この事務局長と学長が協力し,(1)学生に対する強固な責任意識,(2)教職員の現状に対する危機意識,(3)改革のポイントをわかりやすく設定,(4)外部での経験を生かすという4点を共有して改革に乗り出すこととなった。

 「星陵TODAY」は,キャンパスミニコミ誌であり,A4版1枚で休日休暇を除いて毎日発行しているものである。大学事務局の各部課が1週間単位で責任編集・発行し,朝8時半より始業の8時50分まで,学生に挨拶をしながら配布している。はじめはトップダウンで始まったものだが,2004年から現在まで1150号を出す取り組みになっている。制作する職員もネタを探すために学内を見たり学生と話すようになり,学生と職員の交流の場づくりとしても機能していると考えられる。また,職員の情報収集,編集能力の向上と職員間の団結を促進する効果もあるだろう。職員にとっては,自立的な行動,仕事に対する自信を生み,学生には見守られているという自信をもたらしたと考えられる。

 キャリアデベロップメントプログラム(CDP)は,いわゆる「目玉商品」であり,大学の中に専門学校作ったとも言えるものである。独学では合格困難な難関試験の合格を目指し,学生のキャリア開発を支援するプログラムである。教学に任せないことで事業スピードを速めることに成功している。教員は理論を教えることはできても,試験に合格する指導は必ずしも十分ではない。CDPの中身は事業委託しているものだが,職員が設計の中心を担ったプログラムである。具体的には,公務員コース,税理士コース,小学校教員コースなどを設けている。この取り組みは,学生が自己卑下感情を克服するとともに,大学側の学生目線での改革の好例となり,本格的な教育改革の基礎作りとなったと言える。

 これらは,長い大学の改革の歴史で見れば入り口にあたるものと考えられるが,今後の大学の課題は,将来のキーパーソンの育成であり,中間管理職の育成,あるいは優秀な専門職員を中途採用するなどの課題がある。改革の当事者は,これらの取り組みを「当たり前のこと」と表現する。他大学と同じスタートラインに立っただけであるという意味で出た言葉であるが,こうした当たり前のことを当たり前に行える大学がどれだけあるかは疑わしい。本報告では,職員の自立性が鍵となっていることがわかるが,これが多くの大学で当たり前とは言えない。

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